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2018.05.28 不幸犬ゼロ

殺処分ゼロでは終わらない? 不幸犬ゼロ活動

殺処分ゼロでは終わらない? 不幸犬ゼロ活動

普段、家族の一員として、我が仔のように、愛犬を可愛がり慈しんでいらっしゃる皆様には、想像できないような悲しい現実があります。
環境省がホームページで公表している平成28年度の統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」によれば、平成28年度の一年間で、犬10,424頭、猫45,574頭が殺処分の対象となり、犬猫合計で、尊い55,998頭の命が奪われたのです。
この仔たちと私たちの可愛がっている愛犬と、いったい何が違うのでしょう?

目次

1. 殺処分の現状

1―1. 「人間の身勝手」が生んだ不幸な犬たち

1―2. 殺処分数は着実に減少しています

2. なぜ殺処分数は減ったのか?

2―1. 保健所の引き取り数が減少している

2―2. 正当な理由が無ければ動物保健センターは犬猫の引取りを拒める

2―3. 殺処分率が低下している

3. 隠れた様々な問題

3―1. 民間の愛護団体の負担がますます増加している

3―2. 一時預かりボランティアの負担も大きい

3―3. 自治体の保護センターに取り残される大型犬

3―4. 「里親になる」という選択肢の普及

3―5. 終生飼養の正しい知識の伝播

1.殺処分の現状

殺処分とは、各地方自治体が運営する動物保健センター等が引取った動物のうち、飼い主への返還または新しい飼養者への譲渡がかなわなかった動物を致死させることです。
殺処分は、いまだにペットに関する最も深刻な社会問題の一つであり、平成28年度の年間殺処分数は犬・猫合計で55,998頭、つまり、平均すると毎日153頭余りの犬・猫が私たちのすぐそばで命を奪われているということです。

「人間の身勝手」が生んだ不幸な犬たち

平成28年度の環境省の公表データによれば、各地方自治体の動物保健センター等が引き取った犬猫の、同センターに引き取られた際の状況は下記のようになります。
・飼い主から引き取られたケース  犬の場合11%、猫の場合15%
・所有者不明で引き取られたケース  犬の場合89%、猫の場合85%
所有者不明とは、つまり迷子の状態、もしくは本来飼養する責任のある人間に無惨に捨てられた状態ということです。

殺処分数は着実に減少しています

以下は環境省の公表データ「全国の犬・猫の殺処分数の推移」です。
平成元年の殺処分数 犬:約687,000頭 猫:約328,000頭 合計:約1,015,000頭
平成19年の殺処分数 犬:約99,000頭 猫:約201,000頭 合計:約299,000頭
平成28年の殺処分数 犬:10,424頭 猫:45,574頭 合計:55,998頭
いずれも驚愕する数字ですが、これは単なる数字ではなく、ひとつひとつが尊い命です。
それでも、このデータ上では、殺処分数は犬猫合計で約30年前の20分の1近く、10年前の5分の1以下にまで減少したことになります。
確かに、地方自治体が実施する殺処分の数は明らかに減っており、各地方自治体の動物保健センターや、それと連携する民間の動物愛護団体、ボランティアの方々等の努力あっての殺処分数の減少です。
しかし、日本におけるペット飼養者あるいはペットの育成に関わる人間たちのモラルや動物の愛護の精神は向上しているのでしょうか?

2.なぜ殺処分数は減ったのか?

先にも述べた通り、各地方自治体の動物保健センターや、それと連携する民間の動物愛護団体、ボランティアの方々等の弛まぬ努力のおかげで、数多くのワンちゃん・ネコちゃん・その他の動物が命を救われて来ました。これは紛れもない事実であり、尊敬に値するといった表現では安っぽくさえ感じる努力の成果だと思います。
しかし、今回は殺処分ゼロに向けてできる限りの活動をされている民間の動物愛護団体やボランティアの方々からもささやかれる、殺処分数減少の背景にある「数字のマジック」に目を向けて頂きたいと思います。

保健所の引き取り数が減少している

そもそも、各地方自治体の動物保健センターが引取った犬猫の数自体が大きく減少しています。
動物保健センターでは、平成元年には1,048,000頭余りの犬猫の引取りがありましたが、平成19年には約336,000頭、平成28年には約114,000頭と、殺処分数の減少と同様に行政の犬猫の引取り自体が減少しているのです。
しかし、引き取った犬猫のうち、殺処分される犬猫の割合(殺処分率)は、平成元年から平成18年までは依然90%を超えていました。つまり、引き取る行政側の間口を狭めてデータとして表れる殺処分数という数字だけが減少していたのです。

正当な理由が無ければ動物保健センターは犬猫の引取りを拒める

さて、なぜ動物保健センターで引き取られる犬猫の数が減ったのでしょう?
かつては、避妊・去勢の措置をしないまま生まれた子犬や子猫を、あるいは、ガンなどの病気や痴呆になったペットの処分を保健所に希望してくる飼い主から、さらには販売目的で繁殖し売れ残った犬猫や、繁殖できなくなった親犬などの処分を希望してくる犬猫の販売業者から、遺棄されてしまうことを防止するために、保健所では引取りに応じていました。
しかし、2012年の「動物の愛護及び管理に関する法律」の改正で、こういった不条理な飼養者からの引取りを拒むことができることになりました。
当然皆さんも気になるところでしょうが、この法改正で行政が引き取りを拒むことになった、無責任な飼養者のペットたちや、生き物なのに商品としてしか見ていない販売業者の犬猫たちは、いったいどうなってしまったのでしょう?

殺処分率が低下している

かつて、殺処分率が90%を超えていたときは、動物保健センターに引取られた動物は、予算や人員等の制約により3~4日から1週間程度で殺処分されてしまうことがほとんどでした。
しかし、譲渡を希望する個人や民間の愛護団体のおかげで、殺処分が実施されるまでの間にこれらの方々に引き取られ命を救われるケースが徐々に増加し、行政の努力もあって殺処分率は少しずつ低下してきました。
そして、2012年の「動物の愛護及び管理に関する法律」の改正に、努力義務としてではありますが、行政側も引き取った犬猫を元の飼い主に返還する、または新たに希望する方へ譲渡する、そして殺処分数の減少を図ること、と明文化されました。
これを受けて、行政はさらに民間の愛護団体に協力を求め、平成28年には殺処分率50%を下回るまでに低下させたのです。
各地方自治体の動物保護センターの中には、動物愛護の観点から本腰を入れて殺処分を減らすための努力をし、同センターから引き取り手がない犬猫も終生飼養して殺処分をゼロにした、あるいは目指して懸命に努力しているという動物保護センターもあります。
しかし、自治体の動物保護センターの中には、新たな飼養希望者を直接見つけることが難しく、もし引き取られずにセンターに残れば、予算や人員の観点からセンターでの終生飼養は困難で、その結果殺処分率を上げることになってしまうため、数字上の殺処分率を低下させるために、民間の愛護団体に大きく依存する傾向があるのもまた事実です。

3.隠れた様々な問題

行政が掲げる殺処分数の減少と殺処分率の低下という数字のマジックの影で、1頭でも多く犬猫の命を救いたいと真に願う民間の愛護団体やボランティアの背負う負担は増大し、そのままにはしておけない根本的な問題は置き去りにされたままとなっています。

民間の愛護団体の負担がますます増加している

協力する自治体の動物保健センターから犬猫を引き取ったり、あるいは直接飼いきれなくなった飼養者から犬猫を保護して、新たな飼い主を探す譲渡活動をおこなっているNPOなど民間の愛護団体は、引き取った犬猫に病気やケガがある場合や予防のための医療費、譲渡先が見つからず長期わたり飼養する場合の飼養費、鳴き声や臭いが漏れないようにするための施設の改修費など、経済面での負担が増しています。
また、経済面だけでなく、毎日の犬猫のお世話、里親募集の活動、犬猫の譲渡を希望する里親の住環境の確認、保護犬猫の情報のデータ入力や管理、具合の悪い犬猫の動物病院への通院、譲渡会セッティングや犬猫の送迎、寄付金の募金活動など、業務は多岐に渡り、労力の面でも負担は増大しています。

一時預かりボランティアの負担も大きい

現在は、民間の愛護団体も1箇所に保護施設を設けて保護した犬猫をスタッフが交代で世話をしながら飼育する方法では足らず、所属する愛護団体員やボランティアスタッフの自宅で一人当たり1~数頭の犬猫を飼育しながら、新しい飼い主を探す譲渡活動を行うケースが増えています。しかし、この一時預かりのボランティアスタッフも、人員が限られているため、一人当たり数頭を飼育しなければならなかったり、譲渡会のたびに譲渡会場まで往復の搬送をしなければならなかったり、また保護犬が一日でも早く新しい飼い主さんと出会えるようにブログやSNSで保護犬の日常をお知らせしたりなど、本来そのボランティアスタッフが従事している本業のお仕事との両立が難しくなるほどの負担を担っています。また、どうしても幼い子犬、子猫の新しい家族への譲渡に比べ、高齢の犬猫や持病のある犬猫は譲渡が難しく、長期にわたってスタッフや一時預かりボランティアの方々が飼養するケースも少なくありません。

自治体の保護センターに取り残される大型犬

せっかく行政と民間団体が協力して殺処分を減らそうと努力しても、なかなか民間の愛護団体も手を差し伸べにくく自治体の動物保健センターから引き取られにくいのが保護された大型犬です。
民間の愛護団体も大型犬を受け入れる際には、新たな飼い主がなかなか見つからずに長期にわたって保護し続けなくてはならないケースが多く、保護施設にスペースが足りなかったり、飼育や治療にかかる費用などが小型犬に比べて負担が大きいため、経済的に保護する余裕がないなどの理由で、受け入れを見合わせることが多いのです。

「里親になる」という選択肢の普及

近所のペットショップのショーケースに並ぶ可愛い子犬と、わざわざ譲渡会場や保護施設に出向いて会えるすっかり成犬になった保護犬、どちらを家族に迎えたいと思うか、お子さんのいらっしゃる方ならお子さんがどちらの犬を「欲しい~」と言うか、答えははっきりしているでしょう。また、近くで譲渡会など催してないので、実際には保護犬を見たことがないという方も少なくないでしょう。
また、非常に残念なことに、新しい家族が見つかって里親さんに引き取られた保護犬が、再度家族を失い、保護犬に戻ってきてしまうというケースがあります。例えば、ご高齢の譲渡希望者さんにとても活発な幼犬を引き渡してしまい、その里親さんが「身体が不自由になり自分では飼育できない、引き渡しの際に自分に何かあれば引き続きその犬を世話していくといって引取りに同意した家族も、今は事情が変わって犬を飼育できる環境にない」などという理由で、元の保護団体に引き取って欲しいというケースがありました。
保護犬の譲渡を希望する方に、「お家に犬を迎えるならば保護犬から」という善意ばかりが先走ってしまい、そもそも「犬を家族に迎える」ということがどういうことなのか、その犬が命を全うするまで本当に一緒に暮らしていけるのか、犬の飼育経験や住環境、家族構成、経済力といった条件も大切ですが、根本的な動物の愛護や生命の尊さを理解しているかを問うべきであり、保護犬を引き渡す側にもそれらを説明し確認する努力が必要です。
不遇に耐え、やっと救われた大切な命を、再度危機にさらすようなことは断じてあってはいけないのです。

終生飼養の正しい知識の伝播

現在の日本では、ペットショップに行けば子犬や子猫がショーケースの中で売られていて、はたまた、インターネットで見つけた子犬や子猫をクレジット払いで地方から長距離配送してもらうことができてしまいます。
これを決して良い環境とは思いません。しかし、現状ではこんなにもお手軽に犬猫などのペットを迎え入れられる環境にありながら、ペットを家族としてお家に迎える前に相談する場所、お家に迎えてからの正しい飼育方法を教えてくれる場所が、飼い主さんとは縁遠いのはなぜでしょう?
「小型犬なのでお散歩は週に2~3時間で大丈夫ですよ」とか、生後2か月前後の幼犬を飼いたいという一人暮らし方に「平日は仕事で朝から晩まで留守だとしても、お休みの日にたっぷり遊んであげれば大丈夫」などと説明するようなペットショップの店員さんが、一番身近な相談相手であって良いのでしょうか?

まとめ

ボランティアや民間の愛護団体の必死の努力で、着実に成果を見せている殺処分数の減少。
しかし、そもそも殺処分が行われるのは、飼い主のいないワンちゃん、ネコちゃん、捨てられたワンちゃん、ネコちゃん、過剰に繁殖されたワンちゃん、ネコちゃんががいるからです。
まずはこういった命をまもるために進められてきた殺処分ゼロへの活動も、動物愛護や生命の尊重といった精神を広め、人と動物の共生への道を進んでいけるように、そろそろこういったワンちゃん、ネコちゃんを生み出さない社会づくり、不幸犬ゼロ活動へシフトしていく時が来たのではないでしょうか。

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