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フィラリア予防ってなに?
春はフィラリア予防の季節。ワンちゃんのオーナーさんの間では、蚊の発生時期に犬フィラリア症の予防をするのはもはや当たり前となっていますよね。でもフィラリアとその予防について正しく理解しているかというと、自信のないオーナーさんも多いのではないでしょうか?
そこで今回は知っているようで実はよく知らないフィラリアについてわかりやすくご紹介します。
1. フィラリアとは?
1―1. 犬フィラリア症(犬糸状虫症)とはどんな病気?
1―2. 犬フィラリアはどこからどうやって感染するの?
1―3. 蚊に刺されたら必ず犬フィラリア症に感染してしまうの?
1―4. 犬フィラリア症は人間にも感染するの?
2. 感染するとどんな症状が出るの?
2―1. 初期の症状は?
2―2. 中期の症状は?
2―3. 末期の症状は?
2―4. 大静脈症候群とは?
3. 犬フィラリア症にかかってしまった場合、治療法は?完治するの?
3―1. 駆虫薬でフィラリア成虫を、予防薬でフィラリア幼虫を死滅させる方法。
3―2. 予防薬でフィラリア幼虫を死滅させ、成虫については寿命を待つ方法。
3―3. 外科手術で、心臓または肺動脈からフィラリア成虫を取り除く方法。
3―4. 対処療法を行う方法。
3―5. 犬フィラリア症は完治するの?
4. フィラリアの予防
4―1. まずはフィラリア確認検査を受けましょう。
4―2. 検査を受けずにフィラリア予防薬の投与を始めたらどうなるの?
4―3. フィラリア予防薬とはどんな薬なの?
4―4. フィラリア予防はいつからいつまで必要?
1.フィラリアとは?
フィラリアはワンちゃんが蚊に刺されることで感染する病気のこと、と思っている方が多いようですが、実は、フィラリアとは、糸状虫(しじょうちゅう)と呼ばれる寄生虫のことで、病気の名前ではありません。
正確な病名は犬フィラリア症(犬糸状虫症 いぬしじょうちゅうしょう)と呼ばれます。
それでは、この犬フィラリア症(犬糸状虫症)について詳しく見てみましょう。
犬フィラリア症(犬糸状虫症)とはどんな病気?
犬フィラリア症とは、犬フィラリアという体調約15~30cmの白いそうめん状の細長い寄生虫が犬の心臓や肺動脈に寄生し、心臓や血管にダメージを与えたり、慢性的な血液の循環障害や呼吸器、肝臓、腎臓などに深刻な影響を及ぼす病気です。
犬フィラリアはどこからどうやって感染するの?
犬フィラリアは蚊が吸血することによって、犬から犬へと感染します。日本では、一般的によく見られるアカイエカやチカイエカ、ヒトスジシマカ(通称ヤブカ)などをはじめとする16種の蚊が犬フィラリアを媒介します。
犬フィラリアの感染は以下の1から5のサイクルを繰り返すことで、周りのワンちゃんに感染を広げていきます。
- 1. 犬フィラリア症に感染した犬(感染犬)を蚊が吸血すると、感染犬の血液中にいるミクロフィラリアという幼虫が蚊に取り込まれます。
- 2. 吸血した蚊の体内で、ミクロフィラリアは数週間かけて感染幼虫へと発育します。発育した感染幼虫は、蚊の口吻(吸血針)へと移動して感染の機会を待ちます。
- 3. この蚊が別の犬(非感染犬)を吸血する際に、感染幼虫が犬の体内へ侵入し、これによって非感染犬が感染します。
- 4. 犬の体内に侵入した感染幼虫は、皮下組織(皮膚の下)や筋肉、脂肪などで約2~3ヶ月かけて成長し、その後血管へ入り移動して、やがて心臓の右心室から肺動脈に棲みつきます。
蚊に刺されたら必ず犬フィラリア症に感染してしまうの?
上記からおわかりいただけるように、犬フィラリアに感染した感染犬の血を吸った蚊に吸血されることによって感染する病気ですが、日本ではお馴染みのアカイエカやチカイエカ、ヒトスジシマカなどが犬フィラリアを媒介すること、そして予防対策のなかった時代には蚊の多く発生する地域では90%近くの確率で感染が見られたというデータもあることを考慮すると、予防対策が不十分である場合、かなりの確率で感染するといえます。
ただし、感染したからと言って必ず発症するわけではありません。フィラリア幼虫に寄生されても、その多くは成虫になるまでの成長過程で死んでしまうため、発症するリスクはそれほど高くないのですが、寄生したフィラリアのうちどれかが生き残って成虫になると、心臓や肺動脈に棲みつき、重症の場合には命にかかわることもあります。
犬フィラリア症は人間にも感染するの?
感染動物からヒトに蚊を媒介して感染することはありますが、発症するのはごく稀です。
犬フィラリアはイヌ科動物(犬やキツネ、タヌキなど)を最も適した宿主としていますが、犬だけが感染するというわけではありません。稀に猫やフェレット、クマ、アザラシなどの動物にも感染、発症することがあります。
2.感染するとどんな症状が出るの?
感染した犬の重症度は、主に寄生したフィラリアの成虫の数や寄生場所、犬の全身状態などによって大きく左右されます。
また、感染した時点では全く症状が現れませんが、慢性型の場合、初めに咳の症状が見られ、徐々に心臓や血管にダメージを与え、感染から数年を経過して肝臓や腎臓、呼吸器に深刻な症状を発症するケースが多いとされています。
初期の症状は?
たまに軽い咳が出たり、激しい運動を嫌がる、少し元気がなくなるなどの症状が見られることがあります。
しかし、この時期は食欲は普通だったり、特別激しい運動でなければ遊ぶ元気も普通にあったりするので、飼い主さんが気づかないことが多いです。
中期の症状は?
慢性的に咳が出るようになったり、元気や食欲が無くなったりします。また、激しい運動以外にも、散歩などを嫌がるようになることがあります。その他に、被毛の艶が失われゴワゴワした感触になったりします。
飼い主さんの多くはこの時点で愛犬の体調不良に気づかれることが多いようです。
末期の症状は?
元気や食欲が無くなり、呼吸が苦しそうになります。腹水が溜まり、お腹が膨らんだ状態になることがあります。また、運動した際に失神したりすることもあります。体重が減少し、咳に血が混じることもあります。このままでは、心臓や肺、肝臓、腎臓といった主要な臓器に機能不全が起こり、貧血や低蛋白血症などが見られ、放置すると死につながることもあります。
大静脈症候群とは?
大静脈症候群では、急性糸状虫症とも呼ばれ、それまで軽い咳以外の目立った症状が見られなかったのに、病態が急激に悪化します。食欲や元気がまったくなくなり、呼吸困難や低血圧、脈の乱れなど、重度な症状が見られます。さらに、血色素尿といって、コーヒーに似た赤褐色の尿が見られます。恐ろしいことに、直ちに適切な治療をしないと数日で死に至ることが多いです。
これらの症状は、通常、肺動脈内に寄生するフィラリアが右心房あるいは右心房と右心室に突如移動し、弁の逆流による循環不全を引き起こしたり、心臓の動きに伴って振り回されたフィラリアにより赤血球が破壊されて、貧血や血色素尿を引き起こしているのです。
3.犬フィラリア症にかかってしまった場合、治療法は?完治するの?
犬フィラリア症は、心臓や肺動脈に寄生している成虫が原因となって発症するため、成虫の駆除を行います。
フィラリアに感染した犬の治療法には主に以下の4つがあげられますが、それぞれにリスクがあり、犬の年齢や全身状態、フィラリアの寄生している数や寄生部位などによって、そのワンちゃんに合った治療法で治療することになります。
駆虫薬でフィラリア成虫を、予防薬でフィラリア幼虫を死滅させる方法。
薬剤を用いて成虫を駆虫します。ただし、心臓や肺動脈に寄生しているフィラリア成虫が大量の場合、駆虫薬によって死んだ犬フィラリアの死骸が肺の血管に詰まって状態が悪化し、深刻な循環不全に陥って犬が死亡することもあるため、駆虫薬の投薬には慎重な判断が必要になります。
また、新たに蚊に吸血されることによって侵入した感染幼虫を駆虫するために、フィラリア予防薬も使用していきます。
予防薬でフィラリア幼虫を死滅させ、成虫については寿命を待つ方法。
成虫の寄生数が少なく、犬フィラリア症の症状が出ていない場合には、予防薬を使用して、新たに蚊に吸血された際に侵入した幼虫を駆虫します。その際、既に寄生している成虫については、自然とその寿命を迎えて死滅するのを期待して待ちます。成虫の寿命は5~6年と言われています。つまり、その間も成虫によって血管や肺、腎臓や肝臓にダメージを受けるリスクは残ります。
外科手術で、心臓または肺動脈からフィラリア成虫を取り除く方法。
外科手術で頸動脈から細長い鉗子を入れて、肺動脈に寄生している成虫を吊り出します。大静脈症候群の緊急処置として、または大量のフィラリアに寄生されているけれども比較的全身状態の良い犬に対して行われることがあります。麻酔のリスクもあるうえに、難度の高い手術となります。
対処療法を行う方法。
外科手術や駆虫薬に耐えられないと判断される状態のワンちゃんに対しては、体内のフィラリアに対しては積極的な処置をせず、咳を抑えたり、溜まった腹水を除去したり、肝臓障害や腎不全、循環不全などを起こしている場合は、これらに対し療法食や薬で対処します。対処療法を続けることで長期的に生存する例もありますが、その間、愛犬は心臓や肺、血管に負荷をかけないよう安静を強いられるだけでなく、症状が急激に悪化し大静脈症候群を引き起こしかねない、言わば爆弾を抱えたままの状態となります。
犬フィラリア症は完治するの?
犬の年齢や全身状態、フィラリアの寄生している数や寄生部位、寄生状況など様々な要因によって、完治する場合もあれば死に至ることもあります。いずれにしても、長期間または大量の犬フィラリアに寄生されることで、心臓や肺、血管、肝臓、腎臓などに受けたダメージの後遺症は残る場合があります。
4.フィラリアの予防
犬フィラリア症の感染予防は、現在のところ予防薬を正しく投与することによってほぼ100%の確率で予防できる病気となっています。犬フィラリアに感染することで死に至るような重症化することもあるし、軽度あるいは中度の症状で治ったとしても、愛犬の身体に様々なダメージを与えかねません。
愛犬の健康を守るために、犬フィラリア症の予防を忘れずに行いましょう。
まずはフィラリア確認検査を受けましょう。
ウチの愛犬には去年もフィラリア予防薬を飲ませたから大丈夫…ではありません。
もしも、去年の予防期間中にフィラリア予防薬の飲み忘れがあったり、知らない間にワンちゃんが吐き出したりしていた場合、フィラリア予防が不完全で、フィラリアに感染し成虫まで成長してしまっている場合があるのです。
検査を受けずにフィラリア予防薬の投与を始めたらどうなるの?
前年のフィラリア予防が不完全だったために、ワンちゃんの体内で生きた幼虫が成虫になり、心臓に住み着いている可能性があります。さらに、成虫がミクロフィラリアを産んで、ワンちゃんの血液内に大量のミクロフィラリアが流れ出ている可能性もあります。フィラリア確認検査を受けなければこれらに気づくことができません。
その状態で予防薬を飲んでしまうと、心臓に棲みついている成虫に対し駆虫することはできませんが、ある程度の作用を及ぼすため、予防薬により成虫が苦しんで放出する物質によって愛犬がショック症状を起こしたり、また、血液中のミクロフィラリアの大量の死骸が一気に心臓に集まって、心臓や肺の血管が詰まって、死に至る可能性があります。
フィラリア予防薬を投与する前にフィラリア確認検査を受けることで感染を発見できれば、正しい治療で体内のフィラリアを退治することができます。
フィラリア予防薬とはどんな薬なの?
犬フィラリア症の予防薬というのは、フィラリアの感染幼虫が犬の体内に入るのを防ぐ薬ではなく、あくまで体内に侵入したフィラリアの感染幼虫を犬の心臓にたどり着いて成虫になってしまう前に殺すための駆虫薬です。ちなみにこのフィラリア予防薬では、成虫は駆虫できません。
犬フィラリア症の予防薬には4種類のタイプがあります。
内服薬、チュアブルタイプ、塗布薬(スポットタイプ)、注射薬の4タイプです。最近では、嗜好性が高く、おやつ感覚で投与できるチュアブルタイプがワンちゃんにも与えやすくて人気のようです。口から投与する内服薬やチュアブルタイプを飲み込むのが苦手なワンちゃんには、身体に滴下するスポットタイプが良いかもしれません。注射薬については、その効果が半年から1年持続するということで、飲ませ忘れの心配がないというのはメリットになりますが、約1ヶ月の効能を持つ内服薬やチュアブル、塗布薬に比べてアナフィラキシーへの注意が必要です。
いずれのタイプもお薬であることには変わりないので、吐き出していないか、投薬後に虚脱や嘔吐、下痢などの体調の変化がないかどうか注意して観察してください。
フィラリア予防はいつからいつまで必要?
蚊がいる時期は気候や立地の条件などにより異なるため、毎年〇月から〇月までと明確に決まっているわけではありません。その年の蚊が飛び始めてから1か月以内にフィラリア予防薬の投薬を開始し、蚊がいなくなってから1か月後まで(東京や神奈川などでは5月から12月まで投与するケースが多いです)、毎月1回、1ヶ月間隔で(できるだけ日を決めて毎月同じ日に)投与します。予防が必要な期間に、一度も欠かすことなく毎月コンスタントにワンちゃんが予防薬を服用できなければ、フィラリア予防は不完全なものになってしまいますので、ご注意ください。
まとめ
今でこそ、犬を飼育していれば蚊の発生時期に犬フィラリア症の予防をするというのは当たり前になっていますが、イベルメクチン製剤が発売されたのは、今から約30年前、1987年です。このフィラリア予防薬が誕生する前、1986年の犬の平均寿命は6.5歳、フィラリアの感染率は地域によって違いがあるものの平均40~50%、一部地域では90%近くというデータがあります。フィラリア予防が普及する前は、とても残念なことですが多くのワンちゃんがフィラリアによって命を落としていました。この画期的なフィラリア予防薬の恩恵に与ることができる今、私たち飼い主が、正しく予防さえすれば、フィラリアから大切な愛犬を守ることができるのです。ぜひ犬フィラリア症(犬糸状虫症)とその予防について、正しい知識を身につけて、愛犬の命を守ってあげましょう。
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